みらいへのバトンVol.2 「島のソウルフード、おっかん(母)の味、そして父になったワン(私)の味」|おいしいバトン

青のグラデーションが美しい海に囲まれる奄美大島に降り立つと、もうそこはすっかりおおらかな空気に包まれている。
「うがみんしょーら!」
奄美の方言で、「こんにちは!」と出迎えてくれたのは、奄美群島の喜界島出身の母を持ち、今は奄美大島に実家がある、奄美2世の古林洋平さん。
小さな頃から親しんでいる島を訪れるたびに発見することが多いという。
親のルーツを辿りながら、2003年から「奄美」を自身の視点で見つめ、さまざまな角度から写真を通して奄美を表現している古林さんが、奄美のソウルフードと母の味に思いを馳せた料理とは?
親子でともに再認識したルーツを、三味線とシマ唄の情緒あふれる節が包み込む。

プロフィール
古林洋平さん

広告・雑誌・ファッション・WEB等の撮影を中心に活動。
また、ルーツである奄美を2003年からライフワークとして撮影し、国内外で発表、紹介される。
島の高校生を始め、全国の高校生たちとファインダーを通して向き合う中で気付かされることを作品テーマの一つとして、「青い春」と題した撮影を継続中。
http://kobayashiyohei.wix.com/aoiharu
2005年からニコンサロンJuna21を始め、全国で写真展を開催。
2006/2012 K'MoPA清里写真美術館パーマネントコレクション。
喜界島出身のフォトグラファー、橋口タケシさんとユニットhabuを結成。
*『すぎら家』(古林さんの両親が営む小料理屋)
奄美市名瀬末広町12-4久保ビル1F

琉球と薩摩の狭間で、シマの独自性を誇る

「奄美は人と自然が一体化している感じでしょ。おおらかでホッとする場所、いい所よ」。そう話すのは、喜界島に生まれ育った古林美枝子さん、洋平さんの母親だ。
島を離れ、関西で暮らした経験もあるが、今は奄美大島で家庭料理を出す小料理屋『すぎら家』を営む。
無人島を除き8つの島からなる奄美群島は、琉球王国や薩摩の統治時代を経たことにより、沖縄と鹿児島の両文化を持ちながらも、シマ(集落)の帰属意識が強く、独自の文化を育んだという。
互いにそう遠くない島々でも、方言や祭り、調理法などの違いにシマの独自性が表れている。

古林さんの両親の店では、奄美大島や喜界島の郷土料理も楽しめる。白身の魚と粒味噌でつくられた魚味噌(ゆんみす)に、もずくやあおさの天ぷら。父親の晄さんが得意な、喜界島のヤギから作るヤギ汁は臭みがないと人気の一品だ。
また、焼酎ときび砂糖、甘口醤油で煮込んだ甘辛の豚足や角煮は、美枝子さんが育った家の味。調味料の合わせ加減はそれぞれの家庭の味を決める。煮汁が染み込み、濃くもまろやかな旨味。
"味噌"や"醤油"が、風土に根ざし、その土地独自の味が受け継がれていることに、改めて尊敬の思いが込みあげた。

美枝子さんの幼少期、
家庭料理の定番は焼酎で煮込む甘辛の豚煮。
鹿児島特有の甘口醤油は地元では母の味。

奄美でよく食卓にあがる
『とびんにゃ』
(マガキガイ)

喜界島のヤギは臭くないと言われる。
まろやかで洋風スープのような
すぎら家のヤギ汁

濃い目の味付けは成長の証し

さて、洋平さんが奄美のソウルフード、そして母の味に敬意を表しながら作るのは、油ぞうめん。
洋平さん曰く、「汁仕立てだったり、炒めたものだったり、中に入れる具も家庭によってぜんぜん違うんです」。
油ぞうめんは奄美どころか、さらに細かい各家庭のソウルフードのようだ。
古林家はどうだったのか?
「簡単にできるから、特に忙しい時によく作っていたわね」と母。
味の記憶を辿りながら、「うちは味がこってりしていたよねえ」と洋平さんが確認する。
「それはね、成長に合わせて調整していたのよ。育ち盛りは濃い味を欲しがるからね」。さすが母。洋平さんが驚きとともに感動の眼差しを向ける。
照れながらも、初めて母の前で作る油ぞうめん。
母がやっていたようにじゃこで出汁をとり、そこに加えるのに選んだのは、文右衛門蔵の生しょうゆ。
「たいてい油ぞうめんにはじゃこ出汁を使います。そのじゃこの風味を引き立てるのに濃すぎず、薄すぎず、この生しょうゆはバランスがいいなあと」。
東京暮らしが長くなり、甘口醤油で料理を食べることは減ったが、調味料はどちらかというと醤油派。こだわりはないものの、刺身にはきちんと刺身用醤油をと、使いわけをしているという洋平さんが、母に食べさせようと作った油ぞうめん。
茹でた素麺に出汁を絡めて母に差し出した。
奄美の甘口醤油とはまた別の土地の醤油らしさが美枝子さんの口の中に広がる。
「さっぱりしたお醤油もおいしいね。素麺の茹で具合もいいし、洋平、料理上手だったのね」。

取材の1ヵ月前に赤ちゃんが生まれた。
父になったばかりの彼だが、奄美そして古林家のこのソウルフードを息子に伝える日が来るのだろうか、楽しみだ。

じゃこの出汁に生しょうゆを加え、
味を引き締める

母「上手に作れてるわね」
息子「なんだか照れくさいなあ」

油ぞうめんの作り方(2人分)

【材料】
・素麺:2束(好みの分量で)
・じゃこ(いりこ):適量
・水:1カップ
・かつおだし:少々
・塩:少々
・ニラ:適量(ざく切り)
・しいたけ:2枚(細切り)
・しいたけ出汁:小さじ1杯程度
・卵(錦糸卵状に)
・かまぼこ:適量(細切り)
・さつま揚げ:適量(細切り)
・文右衛門蔵生しょうゆ:適量 
・ゴマ油:適量 

【作り方】
①鍋に水、じゃことかつおだしを入れて火にかけ、出汁を作る(じゃこは捨てずに最後に具としてのせる)
②しいたけは水につけて戻す
③①にしいたけ出汁と塩、文右衛門蔵の生しょうゆを加え、味を整える
④素麺を固めに茹でる
⑤素麺と③の出汁を絡め、錦糸卵、かまぼこ、さつま揚げ、ニラ、じゃこなどの具を盛り付ける
⑥最後に熱したゴマ油を回しかけて出来上がり

集いに響く三味線の音色と沁みるシマ唄

「奄美で人が集うときには、たいてい誰かが三味線を弾き始め、シマ唄が始まるんですよ」と洋平さん。写真を通じてルーツの奄美と向きあう中で、シマ唄文化に深い関心を抱いた。
来島するたびに、シマ唄の伝承活動をする『みちびき会』に参加し、大先輩たちからその奥深い世界を享受してきた。
奄美群島では各村落の事を「シマ」と呼ぶからシマ唄。同じ唄でもシマごとに歌詞や節が違うらしい。
継ぐものがおらず、廃れる危機に直面している地域文化は日本中に多く、シマ唄も同様、奄美方言を話せる人が年々減っているだけに、洋平さんの存在は大きい。
「僕なんてまだまだ……」と照れながらも、三味線を爪弾き始めたら、そのかっこいいこと。
島太鼓、指笛が加わり、唄者(うたしゃ)の奄美方言が、意味がよくわからずも、同席する人たちを惹きつける。
シマ唄は、日々の暮らしぶりや、伝説、教訓を詞にし、人生を学ぶ唄とも言われている。
『みちびき会』の方たちにより、演奏が続く。
悲しみ、喜び……重ねた心のひだを投影したシマ唄は、陽気な印象より、生きる中で抗えない出来事に、心を静めながら対峙する島人の芯の強さを秘めているように響いた。

宴もたけなわ、最後に唄われるシマ唄「六調」が鳴ると心と身体が踊り、シマ唄のDNAを感じずにはおれないという洋平さん。
「写真も音楽も似ていると思うんです。そこには魂がある。だから僕は写真を通じてこれからも奄美と向き合っていきたい」。
自分にとっても、観る人にとっても、その人の原風景として心の琴線に触れるような写真、それが洋平さんが撮り続けるテーマなのだろう。

演奏の一つにあった、奄美定番の歓迎の唄『朝花(あさばなぶし)』。
「稀々 汝きゃば拝でぃ 
神ぬ引き合わせに 稀々 汝きゃば拝でぃ……
参ちゃん 人ど真実やあらんな 
石原谷踏み切ち 参ちゃん人ど真実やあらんな」

(訳「こうして皆さんとお会いできるのは稀有な事です
きっと神様の引き合わせに違いありません……
おいで下さった方こそ真心がある証拠です
石ころ道をおいで下さった方こそ」)

ずっと昔から一期一会を大事に、誰をも受け入れる懐の深さが、迎えられる側には、ありのままの姿でいられる心地よさを与えるのだろう。
人が人の心をうごかす、ということをシンプルに体感させてくれるのが奄美の魅力。
忘れかけていることを思い出させてくれる場所。

三味線を奏で、シマ唄が響く宴の中、古林さん親子の笑顔は、この島の寛容さの中に親子のルーツがある幸せを、ともに再確認しているように映った。

文:山本詩野 写真:はしぐちたけし (はしぐち氏の顔写真・ヤギ汁:古林洋平)

奄美を愛する仲間たち

みちびき会の皆さん
楽譜が存在せず、ほとんど口伝で引き継がれるというシマ唄。 それを伝え続けたいという思いを共にする人たちで始めた『みちびき会』は16年になる。三味線は男性が担当し、古林洋平さんも会の一員として学び受け継いでいる。『みちびき会』のみちびきは『導く』より『惹かれ合う』を意味しているとか。

はしぐち たけしさん
喜界島をルーツに持つ、フォトグラファー。広告・雑誌・ファッション・WEB等の撮影を中心に活動。写真、奄美繋がりで古林さんと意気投合し、HUB(繋げる)にかけ、ユニットhabuを結成。ハッピーとスマイルが広がるさまざまなイベントを開催している。二人が撮り続ける奄美群島を舞台にした数多の表情は愛おしく美しい。
habu

コヤナギユウさん
新潟生まれ、東京勤務のデザイナー、イラストレーター、エディター。「南国的オープンマインドが苦手で、全く興味がなかった」というが、すっかり島の虜に。南国ファンになって日が浅いものの訪れる頻度は高く、そのたびに自然の醍醐味、人の寛大さと接し、『奄美大島・加計呂麻島 女もつらいわ』と題した独自目線の連載スタート。現地でもまったく違和感ない、しまんちゅのような明るいオーラを放つ。
i live you! (アイ ライブ ユウ)

三谷晶子さん
東京出身の小説家。島に魅せられ、奄美群島のひとつ、加計呂麻島に移り住んで3年。集落の行事に参加する日常は自分の中に新たな価値観を生み、家に入り込んでくる虫群も今や平然と受け入れるたくましい女子に。「この島の美しさと共に暮らせるなら、虫との共生もへっちゃらです(笑)」各webマガジンで島での暮らしを連載中
未来住まい方会議
ALICEY

青木薫さん
新潟出身の肖像画家。加計呂麻島在住3年。太陽と海、星空のもと、家賃5千円、近所の人が食材を分けてくれたら、お返しに自分ができることをする……「手付かずの自然が多く残る島で、気持ちが伝わり合う関係を体験しながら、本当の贅沢を実感しました」。何にも代えがたい心豊かな暮らしに多くの人が触れられたら、そして、加計呂麻の人口減少にも貢献できたらと、加計呂麻島で唯一のドミトリー形式のゲストハウスを2015年夏にオープン予定。
ゲストハウス『Kamudy』
イペルイペ油画制作所

文右衛門蔵はいかがでしたか?

「奄美の醤油は甘いので、それと比べるとキリッとした味に感じます。奄美の定番醤油も文右衛門蔵も、どちらとも醤油らしい濃い匂いがしますが、微妙に違うものですね」

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