みらいへのバトンVol.5 「作り手の背景にあるストーリーを伝えたい」江澤香織さん

醤油を始め、味噌、納豆、ぬか漬け……日々親しみがある発酵食品は日本が誇る食文化。保存の役割や、素材を食用にするための変換役など、微生物が引き起こすミラクルを究めた先人たちには改めて感動する。
今回のゲストは、発酵に関する出版物に携わったのをきっかけに、麹菌など菌の面白さに目覚めたというライターの江澤香織さん。
特に、酒蔵につく菌による個性や、創造性に富む日本酒の奥深さにハマり、伝承と革新の世界を覗くべく、日本中の酒蔵を“じわじわ”制覇中だ。
食、旅、工芸などを通じて、日本文化とものづくりを掘り下げ、伝えることが好き。そして、興味あるものにとことん突き進む、という江澤さんの情熱に触れる。

プロフィール
江澤香織さん

ライター。旅、食、クラフト、インテリア等を中心に雑誌、 書籍、広告等で活動。お酒をテーマとしたイベント「だめにんげん祭り」 を主宰。主に酒蔵ツアーや酒イベントの企画・運営を行う。日本文化とものづくりを応援し、それらをカタチにした著書には、「山陰旅行 クラフト+食めぐり」「酔い子の旅のしおり酒+つまみ+うつわ めぐり」(マイナビ)など。

伝えたい事はモノの背景にある

インテリア、ものづくり、旅、食などの記事を書くとともに、それらにまつわるイベント企画やツアーの催行等も手掛け、幅広い分野で活動する、フリーライターの江澤香織さん。
一般企業勤務を経て、ライターの道に進んだ。
さまざまなジャンルに渡り、各ジャンルに特化したガイドがものやことを紹介するサイト「All about」の中では、サイトオープン時から「インテリア」にまつわるガイド役を勤める。

また、食、工芸など土地に根ざしている作り手たちに接する機会が増えた。
彼らの情熱を見せつけられてからは、物寄りではなく、人が見えてくる取材の醍醐味を感じるようになったという。

「小さな蔵や工房に行くことが多いのですが、新たな視点、自分のこだわりをとりいれて追求している人もいれば、代々のやりかたを大事に継承する人もいます。
どちらとも、自分たちが本当に良いと思えるものを作り、買い手に届けたいんですよね。
いいものを生みだそうとする背景には、それぞれのドラマが垣間見える。伝承と革新の狭間で、全身全霊で仕事に向き合っている姿に惹かれます」。

江澤さんが作る書籍やイベントなどは、モノの舞台裏に光る汗と涙と喜びを少しでも多くの人に知ってもらい、よいものが継がれていくことを願う、熱いエールのカタチなのだ。

江澤さんが地方で出会ったお気に入り:上段左:京都「今宵堂」の徳利/上段右:新潟「エフスタイル」の銅製ちろり/中段左:青森「津軽金山焼きと津軽塗」の盃/中段中:千葉「スガハラガラス」の宙吹き盃/中段右:輪島キリモトの酒器/下段:島根「袖師窯」の小皿

「旅と食とものづくり」魅力の三角関係

自身が心惹かれ、ワクワクするものを紹介したいと、自身の視点を大事にしている江澤さん。地方出張が多く、自宅に居るのが月の3分の1ということもあるが、
「旅と食とものづくり」の組合せは俄然、彼女の取材テンションをあげるようだ。
江澤さんを知る人からは、「興味あるものとないものへのテンションの違いがわかりやすい」と、からかわれるとか。

旅は発見の連続で、地元ならではの料理を食べられる上に、皿や酒器など手のぬくもりを感じるクラフト、更には作り手にも繋がっていく面白さがある。
取材地では何軒もの店や蔵、工房などを巡り、ハードスケジュールになるが、おいしい食と酒に恵まれ、心がゆるくなる時間は江澤さんにとってまた楽しみのひとつ。
地方出張時はその土地の友人と会い、毎夜宴会になってしまうことも多いそう。

「青森の立ち飲み屋では、さば缶がそのままつまみとして出されているんですよ。青森南部の人達は、南部せんべいに乗せて食べたりするそうです」。
今まで地方で出会った食材の中から、今回は青森八戸の秋さば缶を使って「サバサラダ」を披露してくれる。
秋に八戸沖で捕れるさばは産卵のために南下していく直前で、最も脂がのっていて最良。脂がさっぱりしているので、八戸の人たちは大きなさばでも平らげてしまうそうだ。

さて、江澤流のさば缶一品は、家に残っている葉物野菜とさば缶を、文右衛門蔵の生しょうゆで和えるだけ。
フランス語も得意?!な江澤さん、「CA VA ?サラダ」と笑いながら、あっという間に出来上がり。さばの強い香りを香味野菜がバランスよく包む。生しょうゆがそれらをぴっと引き締める存在になっている。これは酒のつまみにもってこいの味だ。
「塩で和えるときもありますが、やっぱり醤油のほうが香りもいいし、日本酒には合わせやすいんですよ」。

飲兵衛の江澤宅では、八戸のさば缶は欠かせないストック。傷みやすいさばを保つために新鮮なうちに水煮したさば缶。地元食材の味わいがギュッと詰まっている。
自宅飲みで作る一品は青森旅を思い出させる。手軽さだけでない嬉しさがここにあるのだ。

香味野菜をいろいろアレンジすると和的にもエスニック調にも。

『サバサラダ』作り方(2人分)

【材料】
・さば缶(今回は八戸のみなみやのさば水煮缶(秋鯖):1缶
・しそ:3~4枚(適当にちぎる)
・ベビーリーフ:適量
・クレソン:適量
・万能ねぎ:適量(小口切り)
・ごま:適量
・生しょうゆ:小さじ2

【作り方】
① ボウルにサバを入れ、細かくほぐす
② ①に野菜類をすべて入れ、生しょうゆで和える
③ 盛りつけてごまをかける

酒が導く新たなコミュニティスタイル

作り手の心意気、おいしいものに出会うと伝えたい衝動にかられる江澤さん。
「京都のおつまみで日本酒を楽しむ会」「カカオを食べ比べる会」など、半ば趣味もかねたようなイベントも時々開催している。
時には割烹着の女将姿で登場するというお茶目さの持ち主だが、姿だけでなくほんとうに女将かと思うほど、つまみや酒、日本文化について語れるのが江澤さんのすごいところ。
「深掘りするのが好きですね。探求すればするほど疑問が湧いてきて、さらに調べたり、現地でフィールドワークしたりして意外な方向に広がっていくことも(笑)」。

そして、注目すべきは、2011年に江澤さんが数名の友人たちと立ち上げた、ユニークなイベント『だめにんげん祭り』。
名前のインパクトが強烈だが、これは酒好きたちが日本各地を巡るバスツアー。
車中ももちろんサロン化、酒三昧。
とはいうものの、単に飲むだけのツアーではない。毎回目的地では地元の酒屋、酒蔵を表敬訪問、ものづくりの現場などを見学するのはもちろん、クリエイターを始め、地域の人たちと酒を呑みかわし、親交を深める。
東京と地方を繋げる、だめにんげん祭りならではのコミュニティ形成スタイルなのだ。
「酒呑みと知ると、急に距離が縮まるもんです(笑)」と江澤さん。
もの、ことなどが伝承される素晴らしさに改めて触れられることも参加者にとって実に貴重だ。
今まで、島根、新潟、京都、青森、高知などを訪れ、そのご縁をカタチに、江澤さんは『酔い子の旅のしおり』という酒文化を巡る本を出した。

酒は嗜好品としてだけでなく、バイオテクノロジー、歴史、地域性、作法、酒器などさまざまな角度から学びがあり、奥が深いだけに楽しい。そして、人同士の心の壁をとっぱらう力があるのもまた魅力要素。
「おいしいお酒と、それをとりまく土地の文化を味わいに、日本列島、まだまだ行きたい所がたくさんありますね~」と江澤さんの眼が輝く。
田舎に伝わる妖怪や、村興し的不思議キャラクターなど、最近は「ちょっと変で愛嬌あるモノ」に響くという江澤さんだけに、今後もどんなものを織り交ぜながら独自視点で発信してくれるか楽しみだ。

訪れた土地で地元の人達と交流を深める
(江澤さん提供写真)

遊び心あふれる酔い子たちが
集まるだめにんげん祭り
(江澤さん提供写真)

文右衛門蔵はいかがでしたか?

今回は火を使わない料理にしたので、醤油も火入れ(加熱処理)をしていない生しょうゆを選びました。
もろみを搾ったままの穏やかというか、ナチュラルな味わいがとてもいいですね。

取材・文/山本詩野 写真/松本祥孝 撮影場所協力/エマノン(大田区北千束3-26-12 諸星ビル B1F)

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