みらいへのバトンVol.8 笑みをもたらし、心ほぐした一杯 満田結子さん 万江英彰さん

妊娠と母親の看病をきっかけに食への意識が高まったという満田結子さん。化学調味料を使わない中華料理店をご主人と営む一方で、食育に関しても熱心に活動をしている。
4月14日に起きた熊本地震で自らも被災したが、PTA仲間の万江英彰さんとともに、震災3日後には炊き出しを始めた。食事がもたらす心の影響力を改めて実感した二人が、さらに紡いでいる『いのちのスープ』というみらいへのバトンを紹介する。

プロフィール
満田結子さん(右)
万江英彰さん(左)

満田さんと万江さんは益城町の広安西小学校に子供を通わせるPTA仲間。被災時に万江さんがPTA会長、満田さんがPTA書記を担当。
震災時だからこそ、体に優しくおいしい食事を!とミニ炊き出しを二家族で始めた。学校と協力して小学校でも炊き出しを実行し、子どもから大人まで、力づけられた人たちは多い。
一汁だけでもと、仕出し弁当の給食に月一回保護者たちの手作りでスープを提供している。

まず気づくことが未来に違いを作る

約10年前、妊娠と母親の闘病生活が満田結子さんの食意識を変えた。味噌、醤油、塩などの調味料を見直すことから始めた。
「そういえば、幼少の頃、母もいりこを粉末にして自家製ダシで料理していたんですよね」。そう話す満田さんの食意識が次に家庭内から外に目が向いたのは息子が小学校にあがり、給食を食べる状況になってからだという。

給食改善を手掛ける『大地といのちを考える会』の吉田俊道先生の講演会で、インフルエンザの罹患(りかん)率や児童の低体温が改善したデータを見て、1食変えただけでこんなに違うものなのかと満田さんは給食の影響力に驚いた。
また、『こどもの給食を考える会 くまもと』の活動に加わるようになって知った子どもの貧困問題。
「給食で命を繋いでる子どもの存在を知り、自分の息子を守るという狭い考えでは未来を担う子どもたちを育てられないという思いにかられました」と話す満田さんは、気づきがあるたびに食育に対して一層深く、広い視野をもって取り組むようになった。

(満田さん提供写真)

益城おせわ隊の結成

4月14日、満田さんの住む益城町は震度7の地震に襲われた。満田さんの自宅は倒壊を免れたものの、家の中は踏み場がないほどの散乱状態。停電し、水道が止まった。
「いろいろな場所で開催されるマルシェに参加していたので、車にテントとガス台などを入れっぱなしにしていたのが不幸中の幸いでした」。この時ばかりはずぼらでよかったと笑う満田さん。
料理店をしているのでまだ食材はたくさんある。点心を蒸して、PTAのLINEに「どうぞ食べに来てください」と投げかけた。パンダ顔のあんまんや、豚の顔をした豚まんは、緊張続きの子どもたちの心を和ませた。

子どもが同級生で、PTA仲間でもある万江英彰さんにも届けたところ、万江さんの家は停電していないことがわかった。
「万江さんに冷凍庫を預かってもらえたおかげで、食材保管ができ、ロスを最小限に抑えられました」。
家にいることがかえって気落ちさせたという万江さん。
「まさか熊本にこんな地震が起きると思っていなかったので備蓄は用意していませんでしたし、妻がかなり精神的に参っていたので、できるだけ外に連れ出そうと満田さんのところに入り浸っていました。そのうちに一緒に炊き出しをやろうということになったんです」。
停電がきっかけで縁が深まり、自然な流れで満田家と万江家の『益城おせわ隊』はスタートしたのだった。

(満田さん提供写真)

自分たちの活力にもなった炊き出し

「食材はありがたいことに、沖縄から北海道まで全国の方たちが送ってくださった支援物資でまかなえました。宅配がうちの界隈まで来られない状況でしたが、直接持ってきてくださる方や、知り合いの店にまとめて届いたものを分けてもらえました」と満田さんは改めて、人の繋がりのありがたさを振り返る。

SNSで炊き出し開催を呼びかけると、PTAや部活の繋がりを始め、さまざまな連絡網で拡散された。
知り合いの家の前などを転々とするミニ炊き出しは、避難所に行けないエリアの人や、お年寄りたちに喜ばれたという。 最初は豚汁から始まったが、カレー、肉じゃが、ビーフン、きんぴらごぼうなど多彩なメニューを展開。「ある材料でできるものを作るのが基本ですが、変化をつけることで食欲も生まれますよね」、と満田さん。さすが食のプロである。
「ありがとうと言われ、自分たちも貢献できて、炊き出し隊をやってよかったと思います」と万江さん。「炊き出しという目標ができたことが、かえって自分たちの元気にもつながりましたね」。 毎回炊き出しを終えると、反省会を兼ねて飲むビール。みんなが喜ぶメニューを考えるいいエネルギーチャージになっていたようだ。

(満田さん提供写真)

学校と連携し、明るい避難所を実践

万江さんたちの子どもが通う広安西小学校は避難所になっていた。
そこでも『益城おせわ隊』は数々の炊き出しをした。
「校長先生がリーダーシップに富んでいたおかげで、我々PTAも素早く連携できたし、いい避難所になっていました」と万江さんも満田さんも口をそろえる。

役所担当者に代わるまで避難所を仕切る役を担うことになった井手文雄校長。自身にとってももちろん未経験のことだ。重視したのは『誰のための避難所か』『誰の願いの支援なのか』という『避難した人』と『支援してくれた人』の2つの目線。
「役所は『公平さ』『万が一のことへの懸念』を優先しますが、緊急時には現状を見て柔軟な判断をしなければうまく回りません」。避難所にいる人数分以下の支援食が届いても、公平にならないので受け取らない避難所があったことも耳にしたが、弱っている人に先に配るなどとにかく目の前の課題を少しでも解決することが大事だと考える。
来る支援物資は全て受けとり、ボランティアも断らない姿勢をとった。「受ける側にとって保管場所や管理を整えるのは予想以上に大変です。でも断ることで支援物資や人が足りているという勘違いが生じることのほうが私たちも不安でした」と満田さんは言う。

支援物資の食材を無駄に残さず行き渡らせる、支援の好意を100%活かす校長の姿勢にも、万江さんは共感したそうだ。
放課後の炊き出しで、子どもたちが多めにもらえたパンとスープを持ちながら『地震最高!』と叫んだのを聞き、「彼らの逆境の強さと、食のパワーという本質に触れた瞬間でした」。

また、粋なエピソードがある。井手校長が避難所生活で疲弊してきた人たちの様子を見聞きし、「大人の夏祭り」、つまり堂々とビールを飲める会を、隣の畑を借りてPTAと一緒に開催し、大盛況だった。これは避難所の在り方に一石を投じるだろう。
「女性はサロンを作ったりすることで比較的、自己を解放しやすいと思いますが、無口な男性は早く心のつっかえ棒を取るきっかけが必要です。それには酒を交わせる場も必要だと思ったのです」。
受援と共助のバランスがとれたオープンな避難所は、明るい避難所を創り出した。子どもたちの楽しそうな声が聞こえる避難所だったとも評価されている。

(万江さん提供写真)

愛情と栄養たっぷりの一汁

被災した益城町の給食センターは再開までに2年以上かかるという。現在、この界隈の小中学校給食約3,000食は仕出し弁当でまかなわれている。
益城町の給食はもともと、非遺伝子組み換え菜種を用いた無添加の油や、消泡剤を使用しない豆腐など『昔からの手法を大事にした』良質な食材を使っていただけに、現状やむを得ないものの、偏りのある弁当が続くことに心配する保護者も少なくない。

満田さんが音頭をとり、学校の家庭科室を借りて月一回、親たちの手で、冷めた弁当に添える温かい一汁を作っている。益城町の避難所から始まった『いのちのスーププロジェクト』だ。
『温かいごはんを食べさせるなら子供はグレない』という生前の母の言葉が、満田さんの心に深く刻まれている。

今回は、広安西小学校の保護者たちが作る一汁、熊本ののっぺ汁を紹介。のっぺ汁はのっぺい汁とも言われ、新潟県、奈良県、島根県など広く分布する日本の郷土料理。熊本では醤油ベースになっている。

のっぺ汁の作り方(4人分)

【材料】
・若鶏肉もも 60g
・さといも 70g
・板こんにゃく 60g
・だいこん(皮つき) 80g
・にんじん(皮付) 40g
・ごぼう(生) 20g
・葉ねぎ 適量
・乾しいたけ 2g
・油揚げ 1枚
・水 400㏄
・出汁しょうゆ 20㏄
・丸大豆しょうゆ 8㏄
・酒 少々
・塩 適宜

【作り方】
①鶏肉・野菜など材料を一口大に切る
②鍋に水、酒、材料を全部入れ、野菜類が柔らかくなるまで、アクを取りながら煮る(ねぎは大根がやわらく煮えてきたころに加える)
③出汁しょうゆ、丸大豆しょうゆを加え、もう少し煮て、最後に塩で味を調える

食は心をほぐす力がある。
過去の数々の震災体験から、“普段食べなれている味やメニューがストレスを軽減させる”という話も耳にするようになり、乾パンなどの非常食に頼るのではなく、日常よく使う缶詰や乾物などを常に補充しながら非常食にする考え方(ローリングストック)も広まってきている。

今日はお母さんたちの作ったスープが出ると知った子どもたちは大喜び。「宇宙一美味しい!」と叫んだ子の笑顔が最高だった。
辛い時こそ、明るさを取り戻すきっかけにもなる食。その力を熊本で再認識した。

熊本県 益城町立
広安西小学校 井手文雄校長
辛い時こその「明るい避難所」を実行し、避難所の在り方に学びをもたらした。「日々課題が生じる中で、夜中に解決策が見つかったら朝まで待てない性格」と笑う。

炊き出しでも力を発揮。無口ながらも「親びん」と親しまれるナチュラル系中華料理店『藍・天』のシェフ 満田寛之さん(左)と手伝いの櫻井亮太さん。
藍・天(らんてん)

コミュニティの創造につながる地元のクラウドファンディング事業、一般社団法人ゆずり葉の清水菜保子さん(右)とお母さま
お母さまは震災時、広安西小学校での炊き出しに助けられた。その感謝を込めてこの日は、子どもたちに一汁の配膳のお手伝いに。

広安西小学校の保護者の方々。震災を機に縁が深まっている

文右衛門蔵はいかがでしたか?

化学調味料を使わない料理店をしているので、調味料には敏感なほうなのですが、この文右衛門蔵は厳選された素材を使っているというだけあって、素材そのものの味の組み合わせで成り立っていて、後味も優しいと思いました。

取材・文/山本詩野 写真/松本祥孝

みらいへのバトン トップページへ

Facebookページに「いいね!」して、おいしいバトンの最新情報を受け取りましょう!