みらいへのバトンVol.10 「縁台から広がった縁の輪」 安原芳宣さん

神奈川県の三浦半島。その最南端に三崎漁港がある。大正11年に魚市場ができ、小さい町ながら遠洋漁業の基地として栄えた。「三崎といえばまぐろ」、観光客も一直線。全国有数のまぐろの町で、「まぐろだけじゃない三崎!」と声を上げる男性がいる。
いまや町のちょっとしたキーマン、安原芳宣さんが繋げるバトンとは?

プロフィール
安原芳宣さん(左)
安原正美さん(右)

古道具Roji主宰。移住してみてわかった、「まぐろだけじゃない三崎の魅力」を伝えるため、またシャッター商店街に活力を戻すために、さまざまなアイデアを仕掛ける。また地域と連携を取りながら移住促進にも力を注ぐ。
Roji:https://www.facebook.com/hurudougunoroji/
MISAKI路地きっぷ:https://www.facebook.com/MISAKIROJIKIPPU/

縁台で縁つなぎ

三崎に移り住んで9年になる安原芳宣さん。4年前から三崎の下町商店街で古道具ROJIを営む。
「三崎には特に知り合いがいたわけではなく、たまたま行き着いたという感じです」。
そう話す安原さんは、今、三崎で人が循環する流れを作るキーマンになっている。

都会の暮らしに疲弊感を抱き、夫婦だけで静かに暮らそうと東京を離れた。
横須賀でひっそり、カフェと骨董屋を営んでいたが、震災を機に『自分たちだけで暮らす』という考え方は一転した。
「もともと自分は寂しがり屋だし、人は一人では生きていけないことはわかってはいたから、どちらかというと『封印していた人との繋がり』にまた火がついた、ということでしょうね」。

三崎の下町エリアの空気感が気に入り、古道具屋仲間と一緒に駐車場スペースを借りて、自宅から品物を運び、月1ペースで青空骨董市を開いた。
人はほとんど来なかった。そもそも町に人が歩いていない。それでも毎月続けたのは、何かやらないと可能性が広がらないという思いだった。
絵描きやモノづくりの人たちが加わり、2012年10月には『MISAKI MARKET』としてスタート。その認知度は緩やかに上がっていった。

そうした中で、この下町に路面店を構えることにした安原さん。
「よそ者でしたからもっと町の様子を知りたいと思い、意図的に店の前に縁台を出して毎日座っていました」。
「おめえ、なんだ?」と寄ってくる地元の人。縁台で挨拶を交わしているうちに、「強面だけれど悪いやつじゃなさそうだと、1年経ってようやくわかってもらえましたね(笑)」。
安原さんは、町内会や商店街仲間と関わっていくうちに、元気な高齢者が多いものの、やはり若者や人通りが少ない町で考えていかなければいけない課題を感じていた。

いまでは13組の参加で賑わう
MISAKI MARKET
(安原さん提供)

縁台はすっかり
安原さんの店のシンボルだ
(安原さん提供)

ひとつでもシャッターを開ける!

三崎もいわゆるシャッター商店街と化している。目の当たりにして「一つでもシャッターを開ける!」という安原さんの強い想いが芽生えた。
何か発信したいが一人ではできないという人たちがいることに着目し、『Misaki.Factory』というシェアオフィスを2014年3月にオープン。工房を持ちたい、お店をしたい、情報発信したい、などのニーズに応え、協創や可能性が広がる場所として、興味を持つ人たちが集ってきた。
「安原さんとの出会いはまさに人生の転機でした!」と話すのはMisaki.Factoryのメンバーの一人で、布ものを制作している木村初美さん。工房と店を持つチャンスを得て自分のブランドを確立することができたという。
「シャッターを一つでも開けたい!」という安原さんの情熱に共感し、「私もその一人になりたい」と木村さんが『MISAKI.FACTORY@』として引き継ぐことを決意。人が気軽に出入りできる場として、さらに盛り上げている。

MISAKI.FACTORY@から独立して、三崎で店を持つ人が増えたら商店街に活気が戻る。
「それに加えて、若手のクリエイターが育つ場所として定着してほしいですね」と安原さんは期待している。

可能性が広がる場所として
県外からも注目されるMisaki.Factory
(安原さん提供)

MISAKI路地きっぷ

さて、商店街を活気づけようにも、まぐろで有名な三崎だけに、観光客はまぐろしか目指さない。
もちろん、この地を支えるまぐろへのリスペクトはあるが、他にも頑張っている店があることを、三崎を訪れた人たちが知らずして帰っていくのは安原さんにとっても悔しさがあった。
『VS(対)京急のみさきまぐろきっぷ』と冗談交じりに称した『安原に訊け!MISAKI路地きっぷ』を発行。といってもこれは安原さんの店でしか取り扱っていない。どこにでもあるのではなく、わざわざそこに行かないと手に入らないワクワク感を秘めている。そこがまた伝達の面白さ、安原流遊び心なのだ。
「全部自分の脚で探し、舌で確認したお店で絶対的なおススメばかりです」と太鼓判を押す安原さん。
個性ある店は町の顔になっていく。
『楽しげに笑う気の良いオヤジ「ドン・パンチョ」。日本ではここしか味わえない魅力あふれるメキシコのメスカル専門バー』や、
『炒飯の米にこだわり、だれにも米を研がせない。美男美女の店として有名な中華料理店』、
『自称“手前勝手にこだわった料理人”。安心してたくさん呑める店1位か?』などなど、ごく一部の抜粋だが安原さんの愛溢れる視点の紹介文が実に楽しく、各店に興味が募る。
取材中に入手したMISAKI路地きっぷには401のナンバリングが手書きされていた。

安原さんの紹介文が面白く、
味だけでなく店主にも興味津々になる

地元の人も親しむうどん屋誕生

2015年の10月に安原さんの店の斜め前に『饂飩はるかぜ』という、うどん屋ができた。移住者の室越敦さん・友里さん夫妻が営む。
「いやあ、人はいないし、うどん文化もないこの町で本当に店やれるの?って、こっちも他人事ながら心配でしたよ」と安原さんは、室越さん夫婦が店を立ち上げる前の頃を思い出す。
「でもね、食べてみたら美味いし、何よりも二人の人柄で開店時には地元のご近所さんから花が贈られるほど受け入れられた。こんなこと、よそ者にはまずないですよ」。
「安原さんが先駆者として移住者のための下地づくりをしてくれていたからだと思いますね」と室越さん。
だが、室越さんもオープン前に近所の人たちを招いて試食会を行うなど、距離を縮めてきた。
ひたむきに4時間半かけて打つうどんのコシと旨みが、穏やかな人柄とともに地元の人たちを魅了したようだ。

今回は、安原さん推薦で室越さんに文右衛門蔵の一品を作っていただく。タイに住んでいた経験を持つ室越さんオリジナルの「パクチーまぐろうどん」。『はるかぜ』で人気のメニューでもある。

ぶっかけうどんのように
麺にかける“かえし”
(調味料を合わせためんつゆ)

パクチーまぐろうどん(1人分)

【かえしの作り方】
・丸大豆しょうゆ: 500ml
・酒: 250ml
・みりん: 250ml
・砂糖 90g

①丸大豆しょうゆ、みりん、酒を入れた鍋を沸騰させアルコールをとばす。
②火を止めて、砂糖を入れて混ぜる。熱が冷めたら出来上がり

「かえしは色々な和食に使える便利な調味料で、保存もききます。 たくさん作って置いておくととても重宝しますよ」(室越さん談)

【パクチーまぐろうどん作り方】
・ツナ:適量
・ツナが浸かっていたオイル:少々
・パクチー:好みの分量
・プチトマト:1個
・レモン:一切れ
・うどん:1玉
・ナンプラー:少々
・粗挽き胡椒:適宜
・かえし:適量

①うどんを茹で、ざるにあげる
②お皿に盛ったうどんの上にかえし、ナンプラー、ツナのオイルをかける
③ツナをのせ、 粗挽き胡椒を振りかける
④パクチーをのせ、 プチトマト、レモンをそえる

終の棲家になる町は楽しい町!

安原さんの人と人、人とモノを繋ぐ感度の高さが知れ渡り、いまや、面白そうな物件が出ると安原さんのところにすぐ情報が来る。不動産屋は鍵を安原さんに託すほどになったそうだ。
そんな安原さんは移住促進にも前向きだ。面白い物件が出るとfacebookでアナウンス。それを見て移住が決まった人もいる。

今、『ミサキステイル構想』なるものを立ち上げている地元の若者がいる。ステイとスタイルをかけた造語で、仮住まいをしながら町の良さを知ってもらうという移住促進の一環だ。
「町をどうしていきたいかは地元の人が自ら声を発するのが大事。そこに自分のような移住者が協力するという流れが一番いいと思います」と、安原さんはその若者をサポートしている。
移住の大変さも知っている安原さんだからこそ、一過性にならない地元に根付く町おこしに知恵が出せる。
「真鶴の成功事例を見学したり、まだ始まったばかりですが、今後が楽しみです」。

人が来なくても続けてきたMISAKI MARKETが、三崎での暮らしの背骨になっている自負がある。
「地域活性化の人って言われるのは嫌なんです。俺が終の棲家と決めた場所が楽しい場所であってほしい。それだけなんですよ。60歳までにそんな町としての土台をつくりたいからあと3年頑張る。そしてあとは若者が引き継いでいければいいですね」。
そう笑って、今日も頭の中で「人と食とモノとコトが循環する楽しい構造」をぐるぐる描いている安原さんだ。

室越敦さん・友里さん
2015年秋に開店の『饂飩はるかぜ』経営。東京から三崎に移住。「近くに頼れる人(安原さん)がいる安心感がありがたい」。4時間半かけて打つうどんは食べごたえあり!

右:Misaki.Factoryで2年活動後、継いだ木村初美さん。人生の転機をもたらしてくれた安原さんを親分と慕う。
左:手作り小物販売の『おおめさんち』の窪田清美さん。Roji前を通るたびに楽しそうな雰囲気に惹かれ、仲間入りを果たせたとか。

草間一成さん・由美さん
三崎のまぐろと地魚料理『海舟』を営む。
一成さんは三浦が地元。安原さん曰く「男気がある熱い人」。

右:森幾さん ハンドメイドの犬の服を販売するBerry'smamオーナー。Rojiの常連客であり、MISAKI MARKETにも参加。
左:石渡ゆかりさん
ドッグアロマセラピーKOKUA主宰。新聞のチラシでRojiを知ってから長いおつきあいに。

日景庸子さん・春兆郎くん
イベントでも人気の移動販売『たこ焼きおこちゃん』経営。MISAKIぐるぐる春祭り2017のポスターはご主人のイラスト。

3月25日・26日「MISAKIぐるぐる春まつり2017」を開催 まぐろのように街を回遊し、三崎を堪能してもらうスタンプラリー。
今年は過去最大の86店舗が参加する。

文右衛門蔵はいかがでしたか?

室越さん 「味が単純じゃなく、様々な素材の良さが絡み合っているのがわかりますね。コシがあるというような力強さを感じました」。
安原さん 「コクのあるかえしが、コシのあるうどんに馴染みますね」。

取材・文/山本詩野 写真/松本祥孝

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